二人の秘密
※ティルナノグに逃げてしばらくしたぐらいのショタシャナンによるオイシャナ触りっこです。



 子供達も寝静まった闇の中、こつこつと静かに扉を叩く音がしてオイフェは書物に落としていた視線をあげた。その際時計が目に入り、あぁもうこんな時間なのか、と己が本に没頭していたことを悟る。そして、だからこそこの時間の訪問者を訝しく思った。

「……誰?」

 声をかけたが返事がない。風か何かで揺れただけだろうか、とも思ったが、扉の外に微かに気配を感じたため、もう一度声をかけた。

「誰かいるの?」

 ――やはり答えはない。仕方なく、少しだけ警戒しながら扉を開ける。すると、そこには白いシルエットの幽霊――いや、シーツを頭からかぶりくるまるようにした一人の少年の姿があった。
 最初こそ驚いたが、シーツから覗く瞳が人間のそれであるとわかると、オイフェはまず安堵した。人であるなら恐れるものではない。

「…………シャナン?」

 それから、はっきりと顔が見えなかったが見覚えのある黒髪が隙間から見え、確認するように尋ねるとゆらりとシーツの端が揺れた。どうやら合っているようだ。

「こんな夜中にどうしたの?」
「……っ、オイフェ……」

 ようやく言葉を発した少年――シャナンの声は、今まであまり聞いたことのない弱弱しいものだった。それだけでも驚いたというのに、いつもの快活さも無邪気さもなく、瞳に涙さえ浮かべそうなシャナンに、オイフェは怪訝そうな視線を向ける。何があったのだろうか。怖い夢でも見たのだろうか。いや、それでオイフェのところにくるほどこの少年は弱くはない。ならば今は亡き人達を思い出したのか――。
 そんなことを考えながらも、なかなか言葉を紡ぐことが出来そうにないシャナンに、とりあえず中に入って、と促すとずるずるとシーツを引きずりながらシャナンが入ってくる。

「……何かあったの?」

 寝台に座らせ、目線の高さになるようにしゃがんで尋ねた。しかし視線が合わされることはなく、シャナンは己をくるむシーツを握りしめたままじっと黙り込んでいる。シャナンが話してくれないのなら自分もどうすることも出来ない、とオイフェは辛抱強く彼の言葉を待った。

(どうしたんだろう、本当に)

 いつもは自分の言いたいことを包み隠さず、いっそ言いたい放題話してくるというのに、何があったのだろう。いつもと違う状況にオイフェまで不安になってきてしまった。
 やがて、顔を上げたシャナンの瞳は涙でうるんでいた。

「……どうしよう、オイフェ……」
「どう、したの?」
「僕、病気かもしれない……」

 眉尻を下げて弱々しくつぶやくシャナンに、病気、とオイフェも繰り返した。こくりと頷いた少年は、ぽつぽつと言葉を続ける。

「なんだか、体が変なんだ……」
「例えばどんな風に?」
「体が熱くて、呼吸も少し荒いし……頭もぼやっとする、それに……」

 そこまで言って、シャナンはまた口を閉じた。表情や声色などから彼が嘘をついていないことはよくわかる。だから気弱になっているのか、と彼の態度の変化を理解して、オイフェはすぐに提案する。

「それならエーディン様のところへ行こう、きっとなんとかしてくれる。あの方は杖で傷を癒すだけではなく、色々な病気にも詳しい方だから」
「エーディン……」

 その単語を聞いたシャナンの顔色がさぁっと変わり、おや、と眼を見張る。困ったように眉根を寄せてみせたシャナンは、その、ともじもじと続けた。

「先に……オイフェに見て欲しいんだ……」
「私に?」

 珍しいこともあるものだ、とオイフェは思わず首をかしげてしまう。
 確かに、昔からシャナンは軍の中でも比較的年が近かったことや、戦争中は城で留守番をしていた関係もあって、オイフェとよく一緒にいた。叔母には話せないことをオイフェに相談してくれることもあった。
 だが最近は男としての矜持の成長もあり、昔ほど大っぴらにオイフェに甘えることはなくなっていた。幼子たちの兄貴分として誰かに頼ることなく一人前にならなければならない、という強い意志も関係しているのだろう。
 そんな彼が、母親のように慕うエーディンよりもオイフェに、と言うのだ。

「……わかったよ、シャナン。どうしたの、教えて」

 何か理由があるのなら仕方がない、彼の意思を尊重しよう――という聞き分けの良い意見は建て前だった。本当はシャナンがまだオイフェのことを頼ってくれたことが嬉しくて、大船に乗ったつもりで話してくれ、という随分と前向きな心意気だった。
 シャナンもまたオイフェが快く聞こうとしてくれたことにほっとしたのか、それでも少し躊躇ってから、おずおずと口を開いた。

「あの……少し前から、ここも変なんだ……」
「ここって……」

 ふっと伏せられたシャナンの視線を追うと、彼の下腹部へと視線が誘導された。お腹の調子でも悪いのだろうかと触れようとすると、さっとシャナンが身を引いた。

「違う、お腹じゃなくて……!」
「えぇと、じゃあ……?」
「っ……これだよ!これ!」

 ようやくのことでシャナンが指をさしたのは、彼の下腹部の――中心で、柔らかく布地を押し上げている「何か」だった。同時に、オイフェはそれがなんであるか悟り、あぁ、と納得する。そして、確かにエーディンには話しづらいだろう、と彼の判断の理由を悟った。

「……シャナン、大丈夫だよ。それは男なら誰だってあることなんだ」
「えっ……ほんとに?」
「本当だよ、私もなったことがあるからね」

 安心させる様に笑いかければ、シャナンは安堵と猜疑のこもった瞳でオイフェを見上げている。
 つまりこれが初めてなのだろう――精通だ。その知識がないままに局部が腫れ上がっているように見えるのだから、変な病気だと疑うのも無理のないことだった。不安がっているシャナンには悪いが、大したことがなくてよかった、とオイフェはほっと息をつく。
 それにしても、この愛らしさで今までよくそんな話題に触れてこなかったものだと思う。あんな荒くれ者の集まる軍隊では、ふとした瞬間に下卑た話が飛び出ることは珍しくない。オイフェでも性の話題でからかわれたことはよくあったのだ。
 ただシャナンの場合、彼の保護者の目が怖かったのもあるのかもしれない。誰もが10回以上切り刻まれるのは御免だ。

「じゃあ、これの治し方も知ってるの?」
「あー……うん、まぁ、そうだね」

 少し濁してごにょごにょと言う。からかわれたことがよくあったと簡単に言ったが、オイフェはあまりこの手の話が得意ではない。嫌だやめてくれというほどでもないが、積極的に話題に出すことはなく、どちらかというと嵐が過ぎ去るのを待つタイプだった。
 だがオイフェの返事を聞いたシャナンの表情を確かな安堵が覆ったのを見て、まぁこの子のためなら仕方がない、とこの先の展開を覚悟せざるを得なかった。

「どうすればいいの?」
「……中に溜まってるものを出せばいいんだ」
「どうやって?」
「自分の気持ちが良いように触ってごらん」
「え……どういうこと……?」
「いいから、私を信じてよシャナン」
「わかった……けど、オイフェ、僕がおかしくないか見ててくれる?」
「え」

 さすがにその展開は予想していなかった。自慰はその字の通り自分で慰めるからこその自慰であり、誰かに見てもらうなどという考えはノーマルなオイフェにはない。大体、他人にあの姿を見られるなんて恥ずかしいではないかとオイフェなどは思うのだが、初めてのシャナンにはそういった感覚はないのかもしれない。

「シャナン、こういったことは人に見せるものじゃなくてね……」
「お願いだよ、こんなの初めてで……こわいんだ……」

 不安そうな瞳で見上げられて、オイフェはうっと言葉を詰まらせた。慣れてしまえば当然の様にその快感を享受するだけなのだが、未知の感覚に戸惑っている姿が少し哀れに思えてしまって、ついにオイフェは断る言葉を見つけることができなかった。

「っ……まぁ、君がいいのなら、いいけど」

 お風呂も一緒に入ったことはある。見慣れているといえば見慣れた光景だ。なによりあのいつも勝気な少年がこれほど困っているというのだから、相談に乗ってあげるのも年長者の役目だろう。そう治療の一種なのだ、と思いつく限りの言い訳を並べ立て、オイフェは一つ深呼吸をした。

「……どうしたらいいの?」
「どうって……えぇと……そうだね、さっきも言った通り自分の良い様に触ればいいんだ。たぶん、触ればわかるから……」
「触る……」

 言われても、その部分に触れることにシャナンはまだ踏ん切りがつかないようだった。とりあえずズボンの中からそれを取り出したはいいが、腫れているのだと本人が思っているせいか、痛みを恐れているようにも見える。
 さてどうしたものかとオイフェは未熟な性器を眺めながら考えていた。オイフェにそんな趣味はないため他人の性器をまじまじと見ることなどなかった――いや、今後一切ないと思っていたが、なにやらどうしてこんなことになっている。だが、まだ薄い毛の中で立ち上がりかけているものに、特に嫌悪感はなかった。

「ごめんシャナン、ちょっと触るよ」
「えっ」

 一度感覚を掴めば後は本能に任せて動くだろうと、オイフェは少しだけ手を貸すことにした。もちろん、もう一度ズボンの中にしまわせた上で布越しに、である。それでもシャナンでなければ絶対に手など貸さなかっただろうなぁ、とぼんやり考えるほどには、オイフェはこの年下の友人を嫌ってはいなかった。

「っ、あ……!」

 優しく、文字通り腫れ物に触るように擦ると、びくん、とシャナンの体が震えた。ちゃんと感じられるようだ、とオイフェはゆるゆると手を動かし続ける。
 シャナンは未知の感覚に小さな肩をふるふると震わせ、ぎゅうと眉根を寄せながらも為すがままにされている。オイフェの為すことに間違いはないだろうと信じてくれているのか、どうしたら良いのかわからないのか――そんなシャナンの様子をじっと窺っていたオイフェは、ふと、己の心臓がどくんと脈打つ音を聞いた。

(あれ、待って)

 ――なんだか変な気持ちになってきた。
 自分の心境の変化にオイフェはひやりとしたものを感じた。これはあまりよくない状況ではないだろうか、とじわじわと湧き上がってくる熱にわずかに焦りを覚えた。
 オイフェだってまだまだ健全盛りである。男同士で状況は全く違うとはいえ、情事を想像させるような行為がオイフェの脳内をじんと痺れさせていく。

(マズかったかな……)

 思えばオイフェ自身、女性を抱いたことはない。シグルド軍に同行し、その縁で色々な人に声をかけてもらえることはあったが、オイフェ自身が軽い気持ちで女性に手を出すことをヨシとできない性格だった。まだ若輩者だから未熟だからと誠心誠意お断りしてきたのだ。
 そう考えると、同衾にも似たこの状況はオイフェにとっても初めてなのだ。これまであまり活躍させてこなかった雄の部分が勘違いをしてしまっているのかもしれない。

(最近、してなかったからだ、仕方ない、生理現象だ生理現象……)

 思いつく限りの戦術書の内容を思い浮かべながら、やや事務的な動きで少年の欲を刺激する。

「あ、オイフェ、……っ、なんかへんっ……!」
「変じゃないよ。それは気持ちが良い、って言うんだ」
「っ、ぁ、や……!」

 くにくにと何も考えないように擦っていると、シャナンの口からは悲鳴とも堪え切れない嗚咽とも、言葉にならない声が漏れだしてくる。それが、前に街へ降りた時に物陰から聞こえてきた情事の声に聞こえてきて、オイフェの血液もどくどくと音を立てていた。

(落ち着け、落ち着け、相手はシャナンだ、あぁシグルド様、僕が道を踏み外すことのないようお導きください……!)

 そんな神や仏にすら祈るオイフェの努力を知らないシャナンは、与えられる感覚が怖くなったのかオイフェの肩口をぎゅうと掴んでくる。その手の感触がまたオイフェの心をざわつかせた。こんな必死に誰かにすがられた事など、少し大きくなった子供達を抱きかかえている時ぐらいだ。ましてこんな雰囲気の中では脳が勘違いしてしまう。
 もうここまでにしよう、とオイフェは決断した。これ以上はオイフェが最低野郎になってしまう。体がじわりと熱くなっている今となってはもう手遅れかもしれないが、もともときっかけだけと考えていたのだ。それに、自分で触ることを覚えなければ意味がない。

「……続き、出来る?」
「っ、え……」
「あとは同じようにするといい。自分のだから直接触っていいんだよ」

 教えるようにシャナンの耳元で語りかけて、オイフェは芯を持った性器から手を遠ざけた。少し名残惜しそうなシャナンの瞳から視線を逸らして、一つ大きく深呼吸する。
 シャナンはしばらく困ったようにオイフェのことを見ていたが、むずむずする感覚に耐えられなくなったのか意を決したように自分の性器を握った。そして、あとは本能のままにごしごしと扱き始める。もうオイフェが手を貸さなくても大丈夫だろう。
 それよりも、熱を持て余している己の身体もの方が問題だ。初めての感覚に翻弄されるように小さく声を上げているシャナンの姿は、無性にオイフェの性を刺激した。女性のように媚びるような甘い声ではないが、ひどく耳に残るのだ。
 なるべく局部を見ないように、無心を保とうと先ほどまで読んでいた本の内容を時系列順に思い出しながら、オイフェはこの状況が早く終わることを願った。終わったらこうやって処理をするのだと言い聞かせてシャナンを帰らせて、それから処理をするしかない。
 やがて、シャナンが肩を震わせ声を上げる。

「ふ……ぁ、おい、ふぇ……っ、なんか、くる……!!」
「……あ、そのまま出していいよ」
「あ、ぁ、――っ……」

 一際大きく体を震わせたかと思うと、びしゃ、とオイフェが見慣れたものよりも透明な液体がシャナンの幼い性器から吐き出された。粘度も薄く量も少ない。
 はぁ、と大きく息を繰り返すシャナンが不安そうにその液体を見つめている。

「っ……オイフェ、これも……普通、なの……?」
「うん、病気じゃない。むしろ、これからは時々こうして出してあげないといけないよ」
「電気が走ったような感覚も……?」
「そう、これをするとそうなるんだ」

 手近にあった布地で拭ってあげながら答えると、シャナンはようやく安堵したように身体から力を抜いた。もし1人でしていたとして、こうして「大丈夫だ」と断言してくれる相手がいなければシャナンはさらに悩んでいたのかもしれない。そう考えると、見ていてほしい、と言ったシャナンの発言は彼にとって最上の選択だっただろう――後々、もう少し大きくなってこの行為の意味がわかるようになれば、頭を抱えたくなるほど恥ずかしくなるのかもしれないが。
 綺麗に拭い終わったあと、呼吸が落ち着いてきたシャナンに声をかける。

「……落ち着いた?」
「うん……」

 心なしかぼうとした様子でシャナンが頷く。

「今度からこういうことがあったら、同じように処理すればいいから」
「……うん」

 一応返事が返ってくるあたりちゃんと聞こえてはいるのだろう、とオイフェは立ち上がった。あとは時間が解決してくれるはずだ。シャナンのことも、オイフェの熱のことも。
 しかしその際、股間のあたりが緩く山を作っているのをシャナンに見られてしまった。

「……あ」
「っ、」

 小さく漏れた少年の声に、オイフェはどきりと動きを止める。さすがは剣士の一族だ。まだ幼いとはいえ注意力や観察力はずば抜けている――などと冷静ぶって分析しているが、非常にいたたまれない気分になっているのが現実だった。

「オイフェ、それ」
「……ごめん」

 君の声に興奮して、と謝った意味をシャナンが正しくとらえたかはわからない。性的な興奮をシャナンが理解していれば、この気まずさは伝わっただろう。
 だが、しばらく考えるようにオイフェのその部分を眺めていたシャナンの目が、ひらめいたとばかりに輝いたのを見た瞬間、オイフェは彼には真意が伝わらなかったことを悟る。

「ねぇオイフェ。僕も触ってあげる」
「…………え?」

 しかも、シャナンの口から出た言葉は想像もしていないものだった。少なくとも彼からは絶対に聞くはずのない言葉だったのだ。
 だがシャナンは、何を思った様子もなく軽々しく言ってのける。

「それ、同じなんでしょ?」
「いや、これは……」
「嫌なの?僕は最初こそびっくりしたけど、嫌じゃなかったよ」
「その、それは……」
「気持ちよかったし」
「シャナン、あのね……」

 駄目だ、とはっきりと言えればよかった。そういうことは普通じゃない、と教えるべきだった。少なくともオイフェの中の誠実な部分はそう叫んでいたつもりだった。
 だが先ほどからオイフェを支配しつつある欲が、理性をぐらぐらと揺らしていた。
 恥ずかしながら、オイフェは他人にされたことは一度もない。女性を抱いたことがないのだから当然と言えば当然だが、シグルドの軍に同行していた時はそんな気にはなれなかったし、ティルナノグへ逃げ逃れてからもやはりセリスと国の行く先を案じるのに精一杯で、結局1人で処理をする日々だ。
 だが、健全な男としては興味がないわけではないのだ。自分で触ればやはり快感を得られるし、道行く女性に目が引かれないこともない。
 何より、先ほどのシャナンの声と表情にすっかり煽られてしまっていた。少年愛好趣味は一切なかったが、彼の普段全く目にすることのない姿に興奮させられてしまったのは、この体の変化を見れば一目瞭然だった。やはり女日照りが長いとそうなってしまうのだろうか。軍にいた時も時折そういった話題を耳にすることがあったが、まさか自分が、というのが本音のところだった。

(でも……)

 どくどくと高鳴る心音が煩いほどに期待してしまっている。自分でするのとどれぐらい違うのだろう、とあの感覚を思い出してしまった思考を止めることが出来そうにない。
 理性と、欲望とがわずかに睨み合う。
 そして出した結論は。

「……………君が、嫌でないのなら」
「うん、だからそう言ってるのに」

 やはりオイフェとて人の子で、男だった。原始の欲望には逆らえないのだ。
 シャナンがこんなことを言い出したのは、覚えたてのことを実践したい年頃だからなのかもしれない。とりわけ彼は非常に向上心が高く、なんでも己の知識として取り入れようとする節がある。それは彼の帰還を待つ国と、ある1人の幼子のためであるが、そのためならなんでもするという覚悟の上なのだろう。
 かといってこんな行為を覚える必要はないのだが、そこはまぁ、悲しき男の性だった。してくれるというのを拒むだけの強い意志がオイフェになかっただけの話だ。

(もう、なるようになれ……!)

 オイフェは罪悪感と高揚感に蝕まれながら寝台に腰掛けると、シャナンの視線を感じる中ゆっくりと腰紐をといた。そして少し熱を持ち始める己の性器を取り出し、シャナンの反応を窺う。
 自分についているものよりも幾分か大きなソレを目にしたシャナンは、少し驚いたように軽く瞠目して、それから眉間にしわを寄せた。

「……なんか違う」
「はは、まぁ……年の差、かな」
「違う、時々お風呂場で見てるのより、なんかもっと……大きくない?」
「っ、……」

 興味深そうにぺたりと触れてくる指先は、想像よりも温かかった。子供特有の体温と、達した後というのが大きいのだろう。
 突然触られて心の準備ができていなかったことと、直に触られたことに驚いてオイフェははっと息を詰めた。

「、シャナン、別に直接触らなくても……」
「いいよ、別に。そんなに嫌じゃないし」
「嫌じゃないって……」
「オイフェは他の人たちみたいに汚くなさそうだから、いい」

 普段から清潔感を大事に身なりを整えていたことが吉と出たのか、あるいは凶となるのか。
 慌てるオイフェが面白いのかそんなことを言って引こうとしないシャナンに、さっきまでのしおらしさはどこへ行ったんだとオイフェは内心で呆れる。しかしそんなことを抗議している余裕もなく、ぺたぺたと触られる感覚にオイフェのものはゆっくりと立ち上がっていた。

「ふ、……く、……」
「うわ……すごい、こんな風になるんだ……」

 自分以外の誰かが触れている、という状況が、大した感触でもないのにオイフェの性感を刺激する。
 シャナンもまじまじとオイフェの性器をながめながら、ぺとぺとと確認するように触れた。普段なら恥ずかしさを覚えたかもしれないが、今はむしろ自分のものに奉仕をしている他人の姿が視覚から興奮を訴えて、オイフェの征服欲を満たしていく。
 しかし、最初こそそれでも感じていたシャナンの手つきであったが、次第にその動作がもどかしく思えてくる。
 ――もっと、強くして欲しい。
 このままではイけない。まるで生殺しだ。そんなことを言っても経験の少ないこの少年にははっきりとその意味が理解できないのだろう。

「シャナン、触るだけじゃなくて、指を使って握って、上下に擦って……」

 たまらず、口を挟んでしまった。
 シャナンははっとしてオイフェの顔を見上げると、言われたように性器を握ったまま上下に動かし始めた。ぎこちない動きではあったが、先ほどよりも強くなった刺激は十分にオイフェを興奮させる。

「っふ……」
「オイフェ、気持ちいい?」
「……う、ん……っ」

 シーツについた手にぎゅっと力が入る。は、と吐く息が平時よりも荒い。もうあと少しだ。
 けれど、このままでは彼を汚してしまうとオイフェはシャナンの行動を止めようとした。

「シャナン、も、放して……いいよ、」
「いい、最後までする」
「え、ちょっと、」
「どうせもう自分ので汚れてるから、あとは洗うだけだし」
「そう、じゃなくて……っ、あ!」
「それにオイフェだって嫌じゃないんだろ」

 オイフェの言葉など聞く耳を持たず、シャナンは立ち上がったオイフェのものを擦りながら興味深げに観察している。こうなった彼は頑固だ。
 なにより、オイフェの言葉から本心の拒絶が感じられないのだろう。人の気配に敏感な剣聖の少年は、同じように人の感情も機敏に読み取る。その彼が行動をやめないというのだから、やめさせなければ、という義務感よりも、続きを望む声の方が強く聞こえているに違いない。

「あ、シャナン、っ……!!」

 結局やめさせる術を見つけられぬまま、やがてオイフェはシャナンの手によって射精した。どろりと濁った液体が放出された時、シャナンは少し驚いたようだったが、びくびくと震えるオイフェの性器を最後まで見つめている。そんなまじまじと見ないでくれ、と思っても、その言葉は浅く呼吸を繰り返す口から紡がれることはなかった。

「はっ……、はぁ……」

 息を整えながら、オイフェは吐精の快感が過ぎ去るのを待った。性器から顔を上げたシャナンが先ほどの布で手を拭いながらこちらの表情を窺っている気配は感じられたが、今はまだ相手の顔を見ることは出来そうになかった。
 やがて熱が引いてくると、今度はすっと冷たいものが脳裏に到来する。

(なんっ……てことをさせてしまったんだ私は……!)

 急に、罪悪感で死にたくなってきた。色々と大事な何かを失ってしまった、気がする。
 そうだ、たとえ相手が最後まですると言ったのだとしても、こちらの方が力も体格も上なのだからそれは駄目だと突き放さなければならなかったのだ。無理矢理させたのではないし、オイフェの方が羞恥に襲われていたとしても、やはり最初に止められなかった自分が現状の全ての原因なのだ。

(でもシャナンは全然恥ずかしがってないからこれむしろ私の方が無理やり襲われたんじゃ……)

 などとぐるぐると考え込んだ後シャナンの顔をちらと見てみると、彼はじっとこちらのことを見つめていた。その純真な瞳に、やはり罪悪感が勝った。正しく相手を導くことが出来なかったオイフェの完全な敗退だ。

「……あの、シャナン……」
「なに?」
「……その、」
「別にオイフェがそんな顔することないのに」
「そんなって……」
「申し訳なくて死にそう、みたいな顔」

 けろりとした表情で言ってのけるシャナンには、もはやこの部屋に入ってきた時のような暗さはなかった。本当に気にしていないのだろう。それだけが救いだ。これでシャナンが嫌悪の表情でも浮かべていようものなら、オイフェは自分自身を許せなくなっていたかもしれない。
 ようやく少し気分が軽くなって、オイフェはシャナンの瞳を正面から受け止めることが出来た。改めて正面から見た少年は少しも汚れているようには見えず、それがさらにオイフェを安堵させる。

「……いいかいシャナン、今回は流れでお互いに触り合うことになったけど、こういうことは普通は1人でやるものだからね……?」

 説得力も何もなかったが、万が一シャナンが他人に話を持ちかけたりして恥をかかないように、オイフェは戒めの言葉を送る。ある種自分への戒めだったのかもしれない。

「わかった。色々教えてくれてありがとう」

 体の不調も治まりすっきりとした表情になったシャナンは、それじゃあおやすみ、と軽く言ってさっさと部屋を出て行った。あんなことをした後で肝が据わっているというのか、これほど大騒ぎしているオイフェがビビりすぎているのか、複雑な心境だった。
 それに、こんなにあっさり帰ってしまうなんてなんとなく、薄情なものだ、と思ったが、そのすぐ後に自分は何を期待しているのかと頭を振る。彼がここへ来た目的は、病気――だと思っていたものの解決方法を求めてのことであり、それに関しては見事に解決していた。シャナンがこの部屋に残る理由はもうないのだ。
 あのシャナン相手に、恋人のような態度を望むわけもないというのに、一体何を考えてしまったのかとオイフェは頭を振る。

(……勘違い、してるんだ、頭が)

 ああいった行為をするのは好き合った者だという固定観念があって、無意識のうちにそうあるべき姿を想像していたのだろう。そんな簡単に思い込んでしまうぐらいには、本当はシャナンに教えられるほどオイフェはこの方面に聡くはないのである。
 なんだか疲れた、と、特有の気だるさも手伝って、オイフェはそのまま寝台へと倒れ込んだ。

(――でも、気持ち良かった、かな)

 自分で良いところを探して擦る時の的確さはなかったが、自分の意志とは関係なく与えられる快楽は緊張感も相まっていつもとは違う快楽をもたらしてくれた。もどかしさもあったが、それもまたある種クセになりそうな焦れったさもある。
 思い出すと、また体が疼くようでオイフェは懸命に意識の外へと思考を投げた。あれは教育の一環なのだと思って忘れなければならない。都合の良い考えかもしれないが、あまり気に病むとシャナンにもいらぬ気を遣わせてしまう。今後いつも通りに接することが最善策なのだろう。

(それにしても……あんなシャナンの姿を見るのは、後にも先にもきっと私だけ……になるのかな)

 同性では、という前提を付け加え、いやなってほしい、と願望を乗せる。

(異性なら……仕方ない、けど、同性だったらちょっと許せないかも……)

 考えただけでどこか落ち着かない気分になったオイフェは、それを忘れようと目を瞑る。そして緩やかに体を覆う疲労に身を任せ、やがて眠りの中へと落ちていった。



二人の秘密


この後たぶん、結局またシャナンが来てなんやかんややってる内に本番まで致してしまうそんなオイシャナ。