時が経つのは早いものだとしみじみ思うことが最近サマイクルにはよくある。もう我も歳だろうかとふと考えて、いやまだ現役だろうと自分を勇気づけた。
普段は何とも感じていないことだが、ふとした瞬間に時が経ったことを思い知らされるのだ。例えば、そう、部屋の対角線上に我が物顔で座る男の姿を見ている時など。 「なんだ、呆けたような顔をして」 「面をしているのにわかるのか、お前は」 「お前のことならだいたいな。お前はわかりやすいぞサマイクル」 さらりと馬鹿にされたような気がして、比較的気位の高い薄い紫の髪を持った男は、面の下で表情を歪めた。しかしそこは年上であり大人でありその他いろいろである、くっと飲み込むと改めて人の家でくつろぐ男を眺める。 己と同じように面をつけた男は、立派なオイナ族の青年でありサマイクルとは幼い頃から共に育ってきた男だ。武勇だけで言えば存外己より上をいくのかもしれないと、認めたくはないがサマイクルは感じることがある。その上。 「で、どうした」 「いや……時が経つのは早いなと思ってな」 「俺の身長がもう少しでお前を追いぬくのがそんなに悔しいか」 「オキクルミ……」 それだけではないがそれもあった事を否めないサマイクルは、言葉を続ける代わりに男の名を口に出した。言外に、なぜわかったと問い詰めているのだ。 あぁそうだとも、昔はオイナ族の平均身長よりも小さかったオキクルミが今ではすっかり大きく成長してしまい、時の流れをしみじみと感じてしまうのだ。このままではいつか抜かれる日が来る、だろう。 そんなサマイクルの視線を受けたオキクルミは腕を組み、さも心外そうな顔でぽつりと。 「当たり前だ、俺はいつだってそのことを気にしているんだぞ。お前を早く抜かしたいと思っているんだからな」 男の沽券としては譲れん、と尊大に言い捨てる男に、ならばその場合我の沽券はどうなるのだと口を挟もうとしたサマイクル。しかし言い捨てるだけ言い捨てた男はすでに立ち上がり、家の外へと消えてしまっていた。 (抱く側なればせめて身長ぐらい勝たせてやってはくれぬだろうかオキクルミ) そういうことです。 |