光が一面に降り注いだ雪に反射して、目の前を真っ白に染め上げた。家から一歩踏み出したところ、油断していたサマイクルはその眩しさに思わず目をつむり、やがて目が慣れるのを待った。相変わらずこれは慣れんな、と面の下に隠れた顔を歪めながら自然と目が開くのを待つ。

「何をしてるんだ」

 目が開ききらぬ前に声が降ってきた。聞き覚えのあるその低音に、サマイクルは見るまでもなく返事を返す。

「オキクルミか」

 少ししてやっと目をあけると、はたしてそこに立っていたのは一人の男であった。立ち位置の関係からまるで山から顔を覗かせる日輪を背負っているかのように見えるその男は、しかし体についたほの暗い赤い液体が神聖さを失わせている。白と、赤。

「……またケムラムか」
「あぁ、今日は少し遠くまで行ってきた」

 不快な連中だ、と吐き捨てるようにつぶやくオキクルミ。オキクルミは異様なまでに妖怪を嫌うクセがあった。もちろん、妖怪によって生活を脅かされているオイナ族にとって憎むべき相手ではあったが、オキクルミのそれは明らかに人よりも強大なものだ。
 だがそれを倒すことでオキクルミの心が闇に落ちていくような感覚がサマイクルにはあった。妖怪を倒すという、ただそれだけを心に誓う彼はひどく追い詰められているように見える。別にいいのだ、彼ひとりそんなに頑張らなくとも、と思うのだがオキクルミの瞳には妖怪しか映っていない。

「オキクルミ、無理はするな」
「お前に言われる間でもなくわかっている」
「それは、……そうだろうが……」

 くるり、赤い姿が遠ざかっていく。なぜだろう、その背の、白と赤のコントラストが無性に哀しかった。サマイクルはその背に手を伸ばしかけて、やめる。
 この手はおそらく彼に届かないだろう。面の下の表情が知らず歪んだ。

(我では、お前の光に成り得ぬのだろうかオキクルミ)

 悔しい、と思った。


(そんなことはない、ただ孤独に身を置く彼にその想いが伝わっていないだけで)





オキ←サマっぽい。荒みお菊。