糸を小指に巻きつけられた時、どう反応したらいいのかサマイクルは知らなかった。いやそもそも他人に糸を巻きつけるという行為がどういった意味があるのかすら知らなかった。
しかし目の前の、その行動を行った少女が嬉しそうにきゃっきゃと騒ぐものだから、とりあえずなすがままにさせているのである。

「できたよ村長ー」
「ピリカ……これは何の遊びだ?」

はい、と言ってなすがままにされていた片手を開放され、サマイクルは自分の小指からピリカの小指につながる赤い糸を眼で追った。つい先刻、いきなり後ろから走ってきたピリカに抱きつかれたかと思ったら、片手を貸してくれとねだるので左手を差し出したのだ。するとピリカはどこからか赤い糸を取り出し、それをサマイクルの小指と、自分の小指とに巻きつけ出したのである。
はて、それが何の意味があるのか心当たりのないサマイクルが不思議そうに何度も糸を見ていると、ピリカはどこか嬉しそうに訊ねた。

「あかいいと、知らないの?」
「赤い糸?我の持っている文献に何かあっただろうか」
「村長の文献は小難しいことばっか書いてあるから載ってないんじゃないかなぁ」

自分が好んで集めた文献を「小難しい」の一言で片付けられてしまいなんとも言えない気分になったサマイクルだったが、まぁそこはピリカにはまだ早いのだと自分を納得させることで否定しないでおこう。もちろんピリカもそんなこと気にしてはいない。嬉しそうに笑いながら赤い糸を見つめて、一言。

「あかいいとで結ばれた二人はね、運命の人なんだよ」
「うんめっ……!」

どこの迷信だ、と思ったサマイクルだったがそれを口に出せなかった。この少女に、それを吐き捨てるのが躊躇われたのだ。なぜかサマイクルはこの少女に甘いのである。むしろ逆らうことが出来ないのだ。
とりあえず、意味がわかったところでサマイクルは更に思い悩むことになる。

「ぴ、ピリカ……それはどういった意味で」
「大きくなったら結婚するの」
「!!!」
「ね」

何かを言わなければと思いつつも何も言えず固まるサマイクルを横目に、ピリカは糸の伸びるかぎりきゃーと言って遠くへと駆けていく。途中でちらりと振り返ってサマイクルの様子を確認するあたり、あるいはサマイクルの反応を楽しみにしているのかもしれない。
その様子に、あぁ末恐ろしい子だと、体は固まっているが一部だけ動いていたサマイクルの脳は思った。


(しっかりしなさい村長)





その様子をこっそり影から眺めるオキクルミとか面白いなぁ。
あの、ピリサマとか全然イケるんですがいいですか。良くないと言われても書いてしまいましたが。