11月22日。今日もファンダリアは雪である。
 昨日もやはり雪であったし、恐らく明日も変わらず雪であろう、白銀の世界ファンダリア。
 まぁそんなことはふと雪景色を見てイクティノスが思ったことなので、どうでもよいことである。
 そんなことよりも、どうやら今日は俗に「いい夫婦の日」だと言われているらしいとイクティノスが小耳に挟んだのは、雪景色を見ながらふらふらとハイデルベルグの城下町を歩いている時だった。
 言われてみれば、なにやら城内でもちらちらと夫婦がどうのこうのという話題を耳にした気がしていたが、そういった理由からだったのか、と納得する。安直な語呂合わせではあるが、1000年前にはなかった面白い考え方だ。
 ――いい夫婦、か。
 しばし、歩みを止めてイクティノスは思考する。
 夫婦。めおと。そう本来の意味で呼ぶには性別やら間柄やらに問題はあるのだが、それに近しい感情を互いに抱く相手がイクティノスには存在している。誰よりも大切に思い、男女の絆とはまた違った強固な絆を持ち合わせている、そういった意味では夫婦と呼んでも差し支えないと思っている。
 まぁ、もちろん、夫婦になどなれっこないのは重々承知である。なれるものならなりたいものだと思ったこともあるが、なれないものは仕方がない、と諦めるのは案外得意なイクティノスだった。
 ――いい夫婦か。
 しかし、この先一生、誰にもそう呼ばれることはないだけに、そう自分で呼んでみるのも悪くはないと思う。本物の夫婦になるには法律改正という厄介な問題が立ちはだかっているので、よほどのことがない限りそう呼ばれることはないのだ。
 ならば、今日ぐらい浮かれてもいいだろう。
 ――良い夫婦、というのは一体何をするべきか…。
 いろいろなことを思い浮かべながら、イクティノスは急ぎ足で城へと向かって歩き出した。



「――というわけで、色々考えていたんだが子作りなんてどうだろう」
「ちょっと何を言っているのか良くわからないな」